純粋なスリルが楽しめるシリアルキラー作品!韓国映画『殺人鬼から逃げる夜』
こんにちは。映画/セクシュアリティ・ジャーナリスト、セックス・エデュケーターの此花わかです。皆様、いかがお過ごしですか?
今日は、公開中の韓国映画で非常に面白かった作品を紹介させてください!
『殺人鬼から逃げる夜』

©2021 peppermint&company & CJ ENM All Rights Reserved.
チン・ギジュ(『リトル・フォレスト 春夏秋冬』)が演じるのは、コールセンターで聴覚障害者に手話で対応する仕事をしている耳の聞こえない会社員のギョンミ。ある夜、同じように耳の聞こえない母親(ギル・ヘヨン『はちどり』)に会いに行く途中、刺されて重傷を負ったソジュン(キム・ヘユン『殺人者の記憶』)を見つけ、シリアルキラーのドシク(ウィ・ハジュン『ゴンジアム』)に誘拐されてしまう。一方、ソジュンの兄ジョンタク(パク・フン『太陽の末裔』)は、電話に出ない妹を探そうとする……。
スリラーにありがちなプロットを抜き出し、アクションを盛り込んだ!

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スリラー映画は、通常、主人公のトラウマ、恋愛や人間ドラマのプロットを盛り込むことにより、観客が主人公に感情移入し、ストーリーにのめり込むように作られています。
ところが本作は、アクションにしっかりと焦点を当て、余計なプロットを一切排除している点がほかの韓国映画とは大きく異なり、とっても清々しく斬新。
そこにあるのは、登場人物がハイスピードで動き回るアクションのみ! 登場人物たちはストーリーを動かすだけの役割を担っています。つまり、私たちは余計な共感をせず、主人公ギョンミの機知に飛んだ行動や表情に目を奪われながら、殺人鬼から追われる恐怖を純粋に味わえるような構成になっています。
映画の殆どが、殺人鬼とギョンミが走り回るシーン。息のつかせぬ緊張感でスクリーンからいっときも目が離せず、様々な驚きの仕掛けが盛り込まれています。殺人鬼に追いかけ回されて、坂道を駆け抜けたり、駐車場の狭いスペースを移動したり、車にこっそりと入ろうとしたり……ギョンミを映すショットの一つひとつが巧妙なアングルや照明でとらえられており、観ている側のアドレナリンが出るわ、出るわ……!

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しかも、ギョンミの「音のない世界」と他の人たちの「音のある世界」が交互に繰り返され、観客の集中力をピークまで高めて、「きゃー!」という恐怖や安堵の"爆発的な瞬間"を生み出します。
カメラワーク、ライティング、サウンド、キャストの演技が絶妙にピタッとハマり、スリル満点の映画に仕上がっている本作。

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「聞こえない」を風刺した監督

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「追いかけられる」というドキドキ・ハラハラをできるだけピュアな形で映画にしていますが、聴覚障害者の視点を通して韓国社会の差別やセクシズムも浮き彫りにしたクォン・オスン監督。監督はきっと、「聞こえない」世界を"視覚化"することで、「弱者の声を聞こうとしない」社会を風刺したのでしょう。それはラストで見せる、殺人鬼ドシクとギョンミの対話にも投影されています。
ギョンミを演じたチン・ギジュとドシクを演じたウィ・ハジュンの演技にも喝采を送りたい本作。(ちなみにウィ・ハジュンはNetflix『イカゲーム』にも出演しています)
真っ暗な映画館で純粋なスリルを楽しみたいときはこの『殺人鬼から逃げる夜』がオススメです! あと、名作映画のオマージュも盛り込まれていますよ~。
自己宣伝で恐縮ですが、ただ今公開中の、ムーミンを生み出したトーベ・ヤンソンの伝記映画 『TOVE/トーベ』 の監督をインタビューした記事が先日FRaUから配信され、Twitterのガイド枠にも載りました。よろしければ!
長々と読んで下さりありがとうございました。
よい一日をお送り下さい。
此花わか
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