恋愛と性欲は切り離すもの、コントロールできないものなのか?

愛とセックスは別モノなのかーー。世界的に著名なセクソロジストたちの視点から、愛と性的欲求は何なのかを紐解きます
此花わか 2021.09.29
誰でも

こんにちは。映画/セクシュアリティ・ジャーナリスト、セックス・エデュケーターの此花わかです。

私のFRaU Web 連載 #みんなセックスレス が配信されるたびに、「セックスと恋愛は別モノだ」「セックスと愛を一緒くたにするから結婚生活が不幸せになる」「心とカラダは別」というようなコメントをたくさんいただきます。

もちろん、皆さんの価値観はそれぞれで、そこに絶対的な答えはありません。しかし、私個人的には、愛とセックスを、そして、心とカラダを単純に二分化するのは少々乱暴だと思うのです。

そもそも、皆さんは、愛とセックスは何だと思いますか?

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愛も性欲も「感情=反応」である

アメリカのセクソロジストであるアヴァ・カデル博士は、愛には3つの要素―脳、心、感情―の働きがあると主張します。(※1)

①    脳……私たちの頭の中にある器官で、私たちがもつあらゆる機能をコントロールするもの

②    心……心は脳からの伝達により、物事を解釈、理由づけ、考え、感じるもの

③    感情……感情は、脳と心の相互作用によって起こる精神的・生理的的反応のこと

つまり、愛とは脳が心に伝達し、脳と心が相互に関係することにより生まれる感情(反応)のことを指します。

それでは、性欲とは何でしょうか? これも愛と同じように、精神的・生理的的反応=感情なのでしょうか?

NYの心理学者、ロブ・ドブレンスキ博士は「欲求とは私たちに深く組み込まれた生理的な感情であり、性欲を含め、“何を欲するか”という欲求を私たちがコントロールすることはできない」と訴えます。(※2)

***

性欲は人間の3大欲求ではない

とはいえ、性欲を食欲と睡眠欲に並ぶ人間の生理的な“3大欲求”だと捉える考えに異を唱えるのが、アメリカのセクソロジストであるエミリー・ナゴスキ博士。性欲は、“食欲や睡眠欲とは違う”欲求だと言います。(※3)なぜなら、性欲は、睡眠欲や食欲とは異なり、満たされなくても人間は生存できるから。確かに、性欲は人間の自然な欲求ですが、食欲や睡眠欲よりも“はるかに複雑な“感情(反応)”なのです。

だからこそ、多くの人がセックスレスで悩んでいるのでしょう。

愛と性欲はコントロールできるのか?

「恋に落ちる」という表現があるように、愛や性欲が抗えない感情であるのならば、それらは私たちがコントロールできないものなのでしょうか? カップルに恋愛感情や性欲がなくなったとき、私たちはもう為す術もないのでしょうか? それに、性欲がコントロールできないのであれば、浮気は避けられない人間の行動なのでしょうか?

それは違う、とカデル博士は反論します。

脳細胞は70歳を過ぎても分裂し、増え続けることが研究で分かっているそう。要するに、愛情や性欲の司令塔である「脳」は進化し続けているから、自分の行動で脳に刺激を与え働きかけることで愛や性欲を変えることも可能だ、と彼女は説きます。

「恋愛中には、いくつかの脳内化学物質が作用します。これらの化学物質が放出される仕組みを知り、快楽ホルモンを刺激する行動をとることで、愛を盛り上げることができます脳の可塑性を味方につけて、ロマンティックで親密な関係を育み、エキサイティングなセックスライフを送ることができるのです。感情を行動に移すかどうかもその人の選択で、決してコントロールできないことではありません」と。

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感情/反応はコントロールできなくても、行動はコントロールできる

未曾有の長寿社会、女性の社会進出や共同体の崩壊など、様々な社会変化から、現代の“愛、セックス、結婚の価値観”は多様化しています。

けれども、「愛は心で、セックスはカラダ」「恋愛と性欲は別」と単純に切り離すには、人間はあまりにも複雑ではないでしょうか? 自然に湧き上がる“感情や反応”を思いのままに操るのは難しいかもしれませんが、私たちは自分の“行動”に責任をもちコントロールすることはできるはず。

アヴァ・カデル博士は「愛を育むのは選択。セックスは愛を受け取り、与えること」、エミリー・ナゴスキ博士は「セックスは“行為”ではなく、リレーションシップ(関係)を育むプロセス」と言います。

実際に、これまで国内外の性的に不幸せな男女を取材してきましたが、殆どの方たちがセックスという“行為”そのものではなく、“愛”に不満を抱えていました。また、スウェーデンのセクソロジスト、マーリン・ドレヴスタムさんに取材したときも、彼女は性行為のハウツーを教える前に、リレーションシップ(関係)を幸せにもっていく治療を行っていると話してくれました。

心とカラダ、愛とセックスは複雑に絡み合っているように感じます。自分のセクシュアリティを探求することは、愛のあり方、パートナーや自分自身に対する理解を深めていくことだと思うのです。

皆さんはどう思われますか?

***

そんなわけで、次回の「セックスの話」は、世界的に著名な生物人類学者であるヘレン・フィッシャー博士の理論をもとに、「愛を高めるには何が足りないのか?」「どうすれば愛とセックスを育くむことができるのか?」などを探っていきたいと思います。

最後に、様々なセクソロジストの説を紹介しましたが、人間の脳、心、感情や行動には"個人差"があること。そして、人間の問題にはひとつの正解がないことから、私のニュースレターはあくまで情報として受け取り、ご自分なりの答えを見つけていただければ、と望みます。

人間はトライ&エラーの繰り返しで成長し、「今日よりも明日はよい日になる」と信じて……。

長々と読んで下さり、ありがとうございました。

よい一日をお送りください!

此花わか

【参考】

※1……Neuroloveology – Ava Cadell, Ph.D.

※2……The Chemistry and Chimera of Desire - Healthline

※3……Come as You Are: The Surprising New Science that Will Transform Your Sex Life – Emily Nagosuki, Ph.D

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